名詩100選・・



                こどもについて
                ハリール・ジブラーン



   あなたの子は、あなたの子ではなく、
   大いなる生命
(いのち)の希求(あこがれ)の息子(こ)であり、
    娘である。
   あなたを経て現れてきても、
   あなたから生まれたのではない。
   あなたと共にいても、
   あなたに属するものではない。

   あなたの愛を与えることはできても、
   あなたの考えを与えることはできない。
   子どもは自らの考えを持つのだから。
   その身体
(からだ)を住まわすことはあっても、
   その魂
(こころ)までも住まわすことはできない。
   子どもの魂は、あなたが夢にも訪れることのできない、
   明日
(あす)の館に住んでいるのだから。
   子どもらのようになろうと努めるのはいいとしても、
    子どもらをあなたのようにしようとしてはならない。
   生は、後ろに歩まず、昨日
(きのう)を待つことはない
    のだから。
   あなたは弓であり、あなたの子は、
   その弓から生きた矢として放たれるものである。
   この弓を射る大いなる人は、無限の道の上にある標的
   
(しるし)を見、
   大いなる力であなたを曲げたわめ、
   その矢を速く遠く行かせようとする。
   この弓射る人の手で、
   あなたが曲げたわめられることを、
   喜びとせよ。
   何故なら、大いなる弓射る人は、飛ぶ矢を愛するごとく、
   落ち着いたゆるぎない弓をも愛するのだから。

                      
『予言者』 小林 薫訳

                    
◆◇◆

夫婦同士の精神的自立を掲げた結婚を説くジブラーンは、親子の間でも同じように互いの精神的・人格的自立を呼びかけています。
特に、親を弓、子をその弓から放たれる矢と譬えた力動的なイメージは、読む者の胸に強く訴えます。
〈大いなる 〉〈弓を射る大いなる人〉とは信仰を持つ者には「神」を暗示しており、あるいは「運命」と解釈してもいいでしょう。
その何か人間をこえた力が、親を曲げたわめます。
曲げたわめるとは、子育てで親が遭遇する試練のようなものかも知れません。
親の試練の苦しみが大きければ大きいほど、子どもは遥かな人生の目標に到達できるという寓意です。
これは親子間だけでなく、広く教育の現場に携わる者にとっても共通の真理ではないでしょうか。
ジブラーン自らが描く線描画が、一目瞭然、彼の言葉以上に思想を視覚化して、詩的イメージのダイナミズムを教えています。

●ハリール・ジブラーンのプロフィールは こちら

2006年
 1選