名詩100選・・
白い波
柴田 恭
私は沖の海のずっと沖を見遣(みや)っている
そこには一つの白い波があるだけだ
一つの白い波しかない
一つの白い波しかない
私に向って来る白い波が
遠い遠い沖にはある
私は沖の海のずっと沖を見遣っている
◇ ◆ ◇
これはプロの作品ではありません。
作者は無名の少女。出会いは、20歳の時です。広島市の繁華街の街角で詩集を売っていた地元の女子高校生から声をかけられ、気まぐれに求めたのでした。
タイプ印刷、白表紙。本文わずか7頁のぺらっとした同人詩集。1970年代の話で、一冊100円だったと記憶しています。
白い波は暗示します。無数の波の中から、無数の偶然の中からひとすじに自分めざしてやってくるもの。
いつか遠い日に出逢う人、まぬがれ難い幸運・不運、新しい生活。
未知の時間が、波しぶきのように純白に輝いています。
初々しいこの小品で私は詩というものに開眼したのでした。
作品の優劣以上に、詩に出会った時の私の年齢が幸いしたと思います。大学に入学したばかりで、自分自身がまさに人生の〈沖を見遣っている〉青春のただ中にいたからでしょう。
あれから、30年。50歳を越えた私に、なおも訪れる〈白い波〉があるでしょうか。
あれば幸いです。新しい人生がはるか彼方から波打って来ると信じ、〈白い波〉に足を浸す日を夢見て、やがて老いに向かう自分を慰めています。
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