詩は"思いっこ"のゲーム・・



            口紅色のコスモス
          
本原 年江



      
使いかけの口紅は、ドレッサーの狭い四角形の中で
      今日も位置をかえる
      捨てられず 使われず 揺らめくように回る

      白い額の中の艶やかな深紅
(あか)い絹糸
     「この色が好きなの。こけもも色の口紅よ」
      と いつか私に見せた あの口紅のような色
      あなたの口紅色のコスモスが私を見る
      一針一針私のために刺した口紅色のコスモスが
      私を見る。

      私の住む世界の光は届かないあなたの肉体
      微かな魂の波動
     「元気にしてる?」
      と しゃべりかける口紅色のコスモス
      私は「なぜ?」と聞き返す
      七年も
      あなたの電話番号も忘れているのに。


               ◇ ◆ ◇


友を偲ばせる口紅が、日々、作者に語りかけるようです。
友は今、外の光の届かないような孤独な境遇にいるのでしょうか?
電話番号も忘れてしまう時のうつろいの中で、刺繍に咲いたコスモスが痛みと共に、なぜか人の面影を思い出させます。
〈こけもも色〉という配色に作者の都会的なセンスが感じられます。