こころの自分史をつづる・・



          かっこうの声
        
江川 尚子



     
同じ電車に乗り合わせて 四十六年
     夫は突然急行列車に乗り換えて
     介護の森の奥の 終着駅にいってしまった

     私は体調をととのえ
     身づくろいをして
     花をいとおしみ
     山を愛し
     友と語り合いながら
     ゆっくりと 星空の輝く
     終着駅に行くつもり

      静かなお別れができそうですね
      二人が若い日に平穏な日々を過ごした
      陸奥
(みちのく)の吾妻の山から
      ほら かっこうの鳴く声が聞こえてきますよ


             ◇ ◆ ◇


長年連れ添った伴侶が老人介護施設に入所した後、旅立ちました。
といって作者は身の不遇を嘆いてはいません。一人身を楽しみ、星明りの射す穏やかな終着駅を夢見ています。
若き日の記憶を呼び覚ます、かっこうの幻聴がよく利いています