イメージコーデネート・・


             駅 伝
            中村 重一



   優勝争いとシード権競争に熱中していたカメラと声が、
   九区にゴールインしていない選手がいることに気づい
   た。その選手は右に左に振れながら朦朧として走って
   いる。伴走車も合わせて揺れ動く。沿道の観衆は手旗
   を止めて固唾を飲む。

   ゴールに倒れこんだ選手は毛布をかぶって号泣する。
   承け継がれてきた襷
(たすき)を渡せなかった。最下位
   に落ちた。それでもゴールインした。彼の意志は肉体
   に勝った。

   その昔、シルクロードで働いた者は、運ぶ荷物の中身
   を知らず、最終目的地を知らず、ただ駅から駅まで荷
   物を損ねず、確実に届ける役割に撤した。

   人の一生も駅伝ではないか。親から授かった生命を子
   に引き継ぐまでの一区間全力で疾走する。見えない声
   援に導かれ、ゴールに倒れるまで。


             
◇ ◆ ◇


正月恒例の箱根駅伝を扱った異色作。単なる競技の報告に終らず、人の一生を駅伝のイメージでコーディネートした詩精神に敬意を表したいと思います。
3連にシルクロードのエピソードを入れることで、駅伝の意味の次元が高まり、散文から詩への飛躍を遂げています。