何げないものを大切に・・



            陶器の湯たんぽ
          
石本 まさ子



       
布団の中は電気毛布で暖かい
       電気毛布のない時代は湯たんぽだった
       祖母は体の弱い私を心配して
       湯たんぽを手作りの綿入れ袋に入れ
       毎晩 布団の足もとにすべり込ませた

       波型のブリキ製もあったが
       私の湯たんぽは陶器だった
       厚く重い湯たんぽはこげ茶で筒型をしていた
       沸騰したやかんのお湯がドクドクと音をたてて
       小さな口へ飲み込まれていく
       湯たんぽに足を乗せるとほのかに暖かい
       暖かさはやがて体中を包み心地よい眠りに落ちる

       祖母の声で目を覚ます
       家の掃除に使うため
       湯たんぽの湯がバケツにあけられ 淡く湯気が立つ

       冬の夜 明りを消した床の中は
       足もとからまろやかな暖かさが広がり
       祖母の暖かさに包まれた暮らしを思い出す


                ◇ ◆ ◇


若い世代には、ユタンポって何? と言われそうですが、最近はスロー・ライフの暖房器具としてホームセンターなどで、にわかに脚光を浴びているようです。
作者に伺うと、陶製の〈湯たんぽ〉はブリキ製より湯持ちはよかったそうです。陶器の足触りは、電気ゴタツにはない、人肌の温もりが懐かしいとも。

作品の主役は湯たんぽでなく、祖母への追想。詩は「物をして語らしめよ」と詩人・高田敏子は語っています。愛用の逸品を通して祖母の情愛が時の彼方から蘇ります。



              
 
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