詩の教室につどう人たち・・



芒の風

平本 美津枝


        新しい春を迎えた日の午後
        黙って歩いている私に立枯れの芒が
        
背筋を伸ばして品良くおじぎをする
        傾いた陽の暖かさを背に受けて
        小高い古墳に登ってきた
        眼下の小さな町に
        愛した人たちが眠り 我が家がある
        この景色が今と未来の私の居場所

        夕陽が 港を照らし
        松山行きのフェリーがゆっくりと出ていく
        日々の暮らしの場には海がなく
        忙しく流されている時間の先は何かと問う
        迷った心が目を覚めさせるのか
        輝いた季
(とき)を過ぎ 風に翻弄されて立つ芒に
        静かなやさしい力を見た

        風が出てきた
        町の向こうに
        緋色から茜に変った夕陽が沈む
        夕映えの中に芒が嬉々として手を振っている
        白い穂を通り抜けた風が

        私の中を通り抜ける


                ◇ ◆ ◇



山口県・柳井市は海に面した、倉屋敷が並ぶ白壁の街として知られています。
作者は愛する柳井の街を眺めながら、自分の来し方を振り返り、ゆく末を問いかけます。

身近な海を忘れ、あわただしく流されている日々の暮らし・・それを教えてくれたのは芒でした。

風の吹くままにゆらぐ芒に、静かな力が隠されていたことに気づきます。おそらく作者は、芒に自分自身を重ねて見ているのでしょうね。

2004年度の「国木田独歩記念事業・柳井市短詩型文学祭」の詩部門で、第一に入賞した作品です。
同文学祭は、青春時代を山口県柳井市で過ごした明治の文豪・国木田独歩の功績を讃えるため、俳句・短歌・詩作品を全国公募するもので、前年度で50回を迎えました。

詩部門は、32都道府県から210編の投稿があり、最年少は兵庫県の7歳児、最年長は柳井市の83歳女性でした。

実は、この最高齢の女性、私の教室の福本八重さんとおっしゃる方で、惜しくも入賞は逃しましたが、そのチャレンジ精神には大いに敬意を表したい思いです。