詩のララバイ・・



              
隙 間

              小林 雅子



      電車は込みあっていた
      聞きとりにくいアナウンスが終わり
      ホームが近づいてくると
      人が動きだす

      せわしなく目を動かしていたおばさんが
      男たちの間をするりと抜けて座った
      私は後悔しはじめていた
      こんな時間帯の電車に乗ってしまったことを

      動き始めた車窓から 落葉樹が走り去っていく
      丸裸になって立つ木々
      枝を空へ広げて小きざみに揺れている
      木々は落ちた葉っぱや 落ちた花のいた場所を
      決して塞がない

      枝と枝の隙間から空が広がり
      枝と枝と隙間から暖かいひかりが降りそそぐ
      まるで振り落とした葉っぱの行方を
      見守っているように

      冬の日のひだまりを 私は
      人と人との隙間から覗いている
      私だけの空間は広がり
      内側から満ちてくるものを感じる

      揺れているのは私の方だ
      揺れているのは人間の方だ
      込みあった電車の中にも
      ほどよい空間は残されている


               ◇ ◆ ◇


車窓から見える冬枯れの景色・・裸木を縫って冬の陽ざしがこぼれます。
〈隙間〉があるからこそ、木々を通して空の広がりが見え、〈おばさん〉の私でも混みあった車内で運良く座ることができます。
誰も気にとめない〈隙間〉というものに、作者は深い意味と価値を見いだそうとします。若い世代には中々書けない、人生経験を積み重ねて生まれた思索のたまものではないでしょうか。