何げないものを大切に・・



              干潟の石
         
 中村 重一



       
干潟を素足で歩く
       足裏に硬いものが触れる
       消しゴムほどの石が平らに埋まっている

       石は螺鈿
(らでん)のように砂浜に象眼されて
       岬に続く
       寄せる波は白い刃
(やいば)を見せて引いていく
       水平線に切り裂かれた空は
       白く濁って海原を覆う

       足裏に接した石を掌
(てのひら)に取る
       指先で擦って砂を落とすと
       円く薄く光る

       山が砕けて鋭く尖った岩が
       億万年の歳月に洗われて
       まろやかな形を得たのであろう

       石はいま私の机上にある
       心が萎えるとき私はこれを握る



                ◇ ◆ ◇


浜辺で拾ったなんでもない小石。
でも、作者はなぜかこの石が気にいって家に持ち帰ります。よく見れば、石は地球の億年の歴史を物語っていました。
気の遠くなるような時間を耐えてきた小石に、人間のちっぽけな悩みを思い、心をいやされているのでしょうか。

この作品は、第6回駿河梅花文学賞(沼津市・大中寺主催)現代詩部門で、「秀逸」に入賞しました。
選考委員の那珂太郎、高橋順子の両氏から、〈心が萎えるとき私はこれを握る〉という石の来歴に思いをはせ、共感を呼ぶ詩、と評価されました。

2月11日の建国記念日に行われた授賞式では、表彰に引き続いて、梅見の宴が同境内で開かれ、受賞者は、ボランティアの方たちの手厚い接待を受けたそうです。
中村さんは奥様を伴って受賞式に出席され、おかげで「女房孝行」ができたと喜ばれていました。


   
■駿河梅花文学賞応募要項

    同文学賞は、創建百年を記念して大中寺が設けたもので、現代詩・短歌・俳
    句の詩歌を全国公募し、きたるべき詩の世紀を切り開くための一助となるこ
    とを目的にしています。応募期間 6月1日〜9月30日 応募数 1篇
   (投稿料 2千円) B4判400字詰原稿用紙を使用(ワープロ可) 入賞発表
    翌年2月初旬 送付先 〒410ー0006 静岡県沼津市中沢田457 
    大中寺「梅花文学賞事務局」