藤川 和子
とある駅に着いた
閑散とした淋しい駅である
駅員が無表情な顔をして 切符をとる
伸びた雑草を振り分けるようにして先を急ぐ
ひたひたと 迫り来る夕闇が
茫茫と拡がる田舎町を覆う
小さな雑貨屋の店主に行く先を尋ねてみる
鄙(ひな)びた街の中に白い六階建ての病院があった
脳死の兄は繋がれた様々な医療機器で
生き永らえている
今日当たり どこの駅まで辿り着き
どんな風景を見つめているのだろう
二両編成の汽車が揺れだした
長い間走り続けているのに
兄も私も止まる駅がない
冷たい気流が雨になり
忍び寄る翳(かげ)に引かれながら
兄は白い駅から わずかに遠ざかり
私の記憶の奥底に流れ去ろうとする
終着駅の見えない湾曲した二本のレールが
どこまでもつづく
人の世の見果てぬ駅を幾つも走り抜ける
◇ ◆ ◇
この作品は、中国新聞・詩投稿欄で月間最優秀作品賞にあたる「詩壇賞」として掲載されました。
選者の北川透氏は、「駅ということばに現実の鉄道の駅と、人生を旅路と考える象徴的なそれの二つの意味が託されている。淋しい田舎の駅を降りた作者が、夕闇の中、小走りに病院を探して行く光景の描写がいい。医療機器で生かされている脳死の兄を、見舞った後の寄る辺なさ、遣る瀬なさ。その不安に揺れる感じが、兄と私の二両編成の列車の道行に例えられる」と高く評価しています。