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真夜中
かすかな救急車のサイレンの音に目覚めた
屋外に出る
庭の木々も 花たちも
かすかな星の光の中で眠っているように見える
私だけが目覚めているかのように錯覚する
夜空を見上げる
庭の木々の茂みの間からオリオン座が真上に見え
満天の星々の中にひときわくっきりと光っている
昔 夜空をこんなにも美しく感じたのは
何時のことだったろう
冷たい夜気の中に ひとりたたずんで
見上げたのは ふるさとの夜空だった
いつしか救急車のサイレンが鳴り止んだ
すぐにまた鳴り始めるだろう
誰かが病床で ひとりの夜
をむかえるために・・・・
眠れない夜 病室の窓から
星空を見上げるために・・・・
花も木も 庭も家も 大地も
星の光に包まれて眠りつづけるこんな夜に
サイレンの音だけが いつまでも心にひびき
静かに 闇の中に消えてゆく
作者によると、大病をわずらって入院した際、病院の庭で一人星空を眺めた経験からこの作品が生まれたといいます。
作中では、療養中の不安や孤独感を、なんら声高にうたってはいません。心静かに星を見つめ、サイレンの響きに耳を澄ます孤高な姿が浮かぶだけです。
このように感情を抑制することで、詩の余韻は深まります。作者の人格がなせるわざなのでしょうが、その静かな悲しみが心にしみ通ってきます。
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