詩は"思いっこ"のゲーム・・



             
小さな靴
         
高田 敏子



       
小さな靴が玄関においてある
       満二歳になる英子の靴だ
       忘れていったまま二ケ月ほどが過ぎていて
       英子の足にもう合わない
       子供はそうして次々に
       新しい靴にはきかえてゆく

       おとなの 疲れた靴ばかりのならぶ玄関に
       小さな靴はおいてある
       花を飾るより ずっと明るい


               ◇ ◆ ◇


作者62歳の作品です。おばあさんと孫の、年寄りじみた詩にはしたくなかったと本人は語っています。「孫」という言葉を使わず、「英子」と名前で呼びます。それは孫を愛玩的な存在ではなく、自立した人格を認めているからですね。

「満二歳」の表現で、靴のサイズをあざやかに読者に伝える巧みな工夫も光ります。

幼い子供がいる家庭なら、どこでも見られる玄関先の風景。でも、そんなありふれた題材を詩にしようとする人はなかなかいないようです。

詩人・中桐雅夫はこの作品にふれて、よい詩とは「ああ、自分はどうしてここに書かれてあるようなことに気がつかなかったのだろう?」あるいは「ああ、このことには自分も気がついていたのだ、それをなぜ書かなかったのだろう?」と読者に自問させるような詩、とたたえています。