こころの自分史をつづる・・
白いワンピース
高野 和子
母がなくなる日の夜明け
母の手作りの子供服が
天に昇る夢を見た
あれは私の少女の日のワンピース
布地の手に入らない貧しい時代に
母が白い布切れを寄せ集め縫い合わせた作品
十歳の娘の誕生日に贈ろうと
夜なべして仕上げた
スキップするとやわらかいフリルが風を呼んで
空に舞い上がれそうな気がした
眠っている間に逃げていきそうで
片端を蒲団にはさんで眠った
白いワンピースは生家への道を遠のいていく
両手をいっぱい広げて追いすがる少女
白いシルエットは手をふるように風に乗り
はるか天上の青と一つになって消えた
◇ ◆ ◇
この作品は、同名の処女詩集(A5版 97頁 耕人企画刊)に収められています。
白いワンピースが持つ清楚なイメージによって、母親の死が透明な哀しみに昇華しています。読者の視線を舞い上がるワンピースと共に虚空に連れ去る美しい幻影。
美しいだけでなく、〈白いワンピースは生家への道を遠のいていく/両手をいっぱい広げて追いすがる少女〉と、作者の中に生き続ける少女の目で、逝く母を見送ります。この優れた詩的構想には哀切なダイナミズムが感じられます。
出版にあたっては、ご子息が全原稿をワープロに打って清書されたそうです。お幸せな詩集と思います。