詩は"思いっこ"のゲーム・・



               
姉の卵
          
高橋 加成子



       姉はたまごを産んだ。
       朝、蒲団をはぐとたまごが眠っていた。
       父と母は困惑した。
       けれどわたしはうれしかった。

       たまごの色はうすい水色だ。
       顔を近づけると生あたたかいにおいがする。
       姉はあんまり長く抱かないでと厭な顔をする。
       けれどわたしはいつまでもこうしていたい。

       たまごは日に日に生長した。
       時々タンッと殻を蹴る。
       姉はたまごを撫でながら
       顔を合わせたときの情景を想像している。
       けれどわたしはこのままがいいと思った。

       たまごは割れた。
       そして、殻だけが残った。
       割れた瞬間を見たものはいない。
       父と母は安堵した。
       姉は声の枯れるまで叫び続けた。
       けれど私は知っている。
       たまごの割れたわけを。


                ◇ ◆ ◇


若い人でなければ生まれないような奇抜な発想です。
人が卵を産み落すわけはありませんが、作者の心の世界では本当にあってもおかしくないことなのです。

〈卵〉は何を暗示しているのでしょうか? 作者によると、家族にも心の行き違いはあって、相手が大切にしているものを我知らず、自分が壊していることがある。姉が大切にしている卵とは、かけがえのない価値あるものを象徴しているそうです。

心の世界を描くことを、〈心象風景〉と呼んでいますが、〈卵〉を使った心象風景の面白さは、まさに"思いっこ"のゲームにふさわしいものでしょう。
この作品は2005年広島県民文化祭現代詩部門で奨励賞を受賞しています。

さて、〈卵〉を割った犯人は誰だか、あなたにはわかりますか?