こころの自分史をつづる・・
土
小松 冨美
父から聞いた。
閃光一瞬、広島を。
電柱にはさまれて助けを求めて泣いている男の子。
熱線に服を焼かれ、裸にされて逃げ回る若い女の人。
それでも前だけは、両手でしっかりと隠していた。
やがて、倒れて、息がなくなる。
亡くなった人々は、川をあふれるように、
毎日、流れて行った。
広島の土は、憶えているだろう。
時は移っても、草木が亡き人々の悲しみを吸い上げて、
花を咲かせてくれるようにと
土は希(ねが)っているだろう。
時代は流れても、
広島の町に花は揺れている。
明日は、晴れるだろう。
◇ ◆ ◇
父親から聞いた原爆のむごたらしさ。
風化していく惨禍の記憶を、人は忘れても、広島の土はいつまでも憶えているでしょう。悲しみを嘆くだけに終わらせず、明日を信じる明るさで作品を締めくくったところに、作者の平和を願う心が暗示されています。