「アンコール」
私が学生時代に書きためた作品をまとめた、はじめての詩集です。
恩師の安西均先生の、心こもる添え書きが、私の宝物です。
作品はどれも高田敏子主宰詩誌『野火』に掲載されたものです。
詩誌『野火』は、1966年に創刊されて以来、隔月発行を確実に守りつづけて、1989年に主宰者の逝去により23年余の歴史を閉じました。

私が投稿を始めたのは大学2年次の1976年。『野火』が創刊10周年を迎えた直後でした。当時、野火の会には、隔週水曜日夜、高田先生宅で若者が集う「水曜会」と呼ばれる小さな勉強会がありました。私が入会した頃、ちょうど『野火』誌上では、水曜会のメンバーによる詩人訪問記の新企画がスタートしたばかりで、私もさっそくその一員に加わりました。

訪問インタビューは好評で、4年余りも回を重ね、27人の諸先達にお会いする機会が叶いました。
詩人をはじめ、小説家、画家、翻訳家など、高田先生と交遊の深いバラエティーに富んだ顔ぶれでした。
この得難い経験は『野火』に入会した最大の特典だったのです。わが目で見、肌で感じた先人の詩精神が自分の貧しい詩観を揺さぶり、新たな詩句を作り出していく思いでした。

『野火』がなければ私の詩は、あり得なかったのです。私の青春は『野火』とともにありました。それは会員同士が競うように言葉を練り、心を練る歳月でした。

こんどこそは先生にほめられたい、うならせてみたい。投稿とは、先生の心臓を射程距離にすえて、言葉の弾頭を打ち込むような行為でした。
初心の青年が、先輩詩人の胸にぶつかって飛ばした火花・・その数少ない結実がこの処女詩集となりました。