衝突




     
街路樹はうす緑に光を透かし
     黄色い花粉が車道に散っている
     木洩れ陽が倒れたオートバイを染め
     バックミラーに深い空が沈んでいる
     交差点の中に若い男が ただぼんやりと立ち
     足許に体を折り曲げた少年が横たわっている

     衝突は終った
     交差点を流れる時間は速度を落とし
     男を取り巻いて傷口のように閉じ始めた

     彼は立ちつくしている
     これから演奏を行う指揮者のように
     アスファルトの壇上で
     よどんだ空気の向うを見つめている

                   
詩集『白夢』

                 ● ●


交通事故の直後を撮った写真を見て作りました。
写真には、バイクとぶつかった乗用車の青年が、交差点の真ん中で、なすすべもなく立ちすくむ情景が写されていました。
事故の瞬間を撮影した迫真的な写真で、私はまるで自分が当事者になったような気持になりました。
それをきっかけに、加害者の心理を再現してみようと思い立ちました。
〈彼は立ちつくしている/これから演奏を行う指揮者のように/アスファルトの壇上で/よどんだ空気の向うを見つめている〉とは、呆然と む青年の姿が、オーケストラの演奏を始める前の指揮者の立ち姿に似ていると感じて、この比喩を用いました。